資料「高齢者人口及び割合の推移」から読み取れる問題点を上げ、その対応策についてあなたの考えを述べなさい。
平成29年度東京消防庁Ⅰ類2回目
資料「高齢者人口及び割合の推移」から読み取れる問題点を上げ、その対応策についてあなたの考えを述べなさい。 (※資料は省略しています。)
の解答例、解説編です。まずは<ヒント編>を読み、自身で論文の骨格を作ってみてください。
<ヒント編>
●論題分析
論題はいたってシンプル
まず「資料から読み取れる問題点(1つか多くても2つまで)」
次に「その対応策について自分の考え」
を書いていけば構成は大丈夫です。ちなみに問題点を上げたらそれのどのようなところが問題なのか説明をする必要があります。
●資料内のどの部分に注目するか・・・
構成は決まりました。では資料内のどの部分を問題点として考えるかということですが、ここは「比較の視点」を持って見ていくことをお勧めします。
前々回の記事
資料 家具類の転倒・落下・移動防止対策を実施していない理由 から読み取れる問題点を2つ上げ、それぞれの対応策についてあなたの考えを具体的に述べなさい
でも解説したように、データが与えられたら一部のみに注目するのではなく全体を見たうえで問題となる部分を考える必要があります。グラフを見てどのような経緯で高齢者が増加していっているのか年度ごとの数字を追いながら考えてみてください。
●練習
ではウォーミングアップを終えたところで論文を書く練習をしてみます。それぞれの項目を100~200字程度で構わないので埋めてみてください。
「資料から読み取れる問題点1つか2つ」(200字程度)
「それらを問題であると考えた理由」(80字程度)
「その対応策についての自分の考え」(200字程度)
<解答例>
本資料から読み取れる問題点は高齢者人口の割合が加速度的に増加していることである。つまり、昭和60年から平成27年の間を10年ずつの間隔で区切ってグラフを見てみると明らかに増加のペースが速いのである。具体的には昭和60年の時点で約1250万人であったのが平成7年では1800万人、17年では約2500万人、27年では約3400万人といずれの年度も10年前を上回るペースで高齢者が増え続けているのである。このような急激な高齢化進行による影響は救急要請の増加そして火災を含めた災害時における要援護者の増加が上げられる。そして火災や災害で亡くなる方の多くが60歳以上の高齢者であることから、彼らをいかにして守っていくかが重要となる。しかし都税から配分される予算は限られており、それらの対策としてむやみに消防署を増設したり救急車を何台も追加配備するわけにはいかない。
急増していく高齢者を限られた予算の中で守っていくためには未然に被害を防いでいくことが大切であると考える。つまり、そもそも火災を発生させないことや救急車を本当に必要な時に呼んでもらうこと、台風や大雨等あらかじめ接近が予知でき得る自然災害に対して早期避難を心掛けるようにしてもらうことである。私はこれらのことについて消防行政が高齢者の方々に周知していくにあたって防火防災診断の機会が活用できると考える。すなわち、高齢者宅へ伺い火災を未然に防ぐ呼びかけや、正しい救急要請、災害時の早期避難の心がけを説明し火災や災害時の被害を軽減させるのである。ただ、アドバイスしたとしても自分事として受け入れてもらえないケースが想像できるのもたしかである。なぜなら、誰しも火災や大規模災害による被害に直面するのは一生に一度あるかないかといった確率であるため、まさか自分が災害に遭うとは思いもしていない方が多いかもしれない。しかし火災や災害によって犠牲になる方の多くが60歳以上の高齢者である事実を考慮すると、高齢化社会において守らなければならないのは彼らの安全なのである。
そこで、高齢者の方々に当事者意識を持っていただくよう防火防災診断を実施していかなければならない。例えばたばこの不始末がどのような結果を招くのかを画像を使いながら説明したり、2019年に発生した台風19号による犠牲者の多くが高齢者であったことを当時の新聞記事を用いながら解説する等なるべく納得がしやすいように実施するのである。
また安易な理由で救急車が出動している実態があることも紹介し、緊急時以外は#7119救急相談センターに相談して頂くよう案内することに努めたい。このように災害の被害に遭いやすい高齢者の方々を未然に守り、自助力の強化を図っていくことが高齢化が進行したとしても火災や災害に対して安全、安心な社会を作っていけると私は考える。
<解説編>
●構成
構成は
1段落目
・資料から読み取れる問題点(高齢者の加速度的増加)
・問題となる理由(予算は限られており急に消防署増設や救急車を追加配備できないため)
2段落目
・対応策(防火防災診断を活用し、未然に高齢者を守っていく。)
・反論(自分事として受け入れてもらえるのか?)
3段落目
・反論に対する自説の強化(当事者意識を持ってもらうように周知していく)
となっています。
●「加速度的」とは・・・
本文1行目から使われている「加速度的」という言葉ですが、わかりやすく表現すると「急激に」のニュアンスに近いかと思われます。実際グラフを見てみると昭和60年の約1250万人からカウントし、平成7年で+550万人、平成17年で+700万人、平成27年で+900万人と10年ごとに増加する割合が増えています。
ちなみにですが、例えば年数の区切りを上記と全く同じ条件で見た時に200万人ずつ増加しているのであれば「比例的に増加している」と表現できます。しかし今回の高齢化についてはその「比例的」よりも速度の速い「加速度的」な状態で進行していることが資料を見て把握することができます。
●対策はハード面よりもソフト面を重視
高齢者の加速度的増加に対応するにあたってはむやみに消防署を増設したり救急車を増やせばいいというものでもありません。本文でも述べた通り都税から割かれる予算は限られており、その限られた予算の中で効率よく消防行政を展開していかなければなりません。例えば高規格救急車※1台にしても値段は約1400万円(日産キャラバンNV350ベース)と非常に高額であり、また救急隊(東京消防庁は1隊3名)の人件費も考えると簡単に何台も追加配備できるものでもないことがわかります。
※高規格救急車:重篤な傷病者に対し救急救命士が高度な処置を行える設備を備えた救急車のこと。東京消防庁は全救急隊に高規格救急車が配備されている。
このように考えるとハード面での対応には限界があり、やはりソフト面を中心にした対応を取らざるを得ません。そのような時に活用したいのが「防火防災診断」です。「防火防災診断」は高齢者や体にハンデを持った方の自宅に訪問し直接防火や防災のアドバイスを行う取り組みのことです。本文ではこの機会を活用し高齢者に当事者意識を持って頂けるようなアドバイスを行っていくべきであると述べています。
―当事者意識を持ってもらう必要性とは―
自分の考えではありますが、火災や災害に遭う確率は一生に一度あるかないかではないかと考えています。このことが災害への備えに対する感覚を鈍らせてしまい、たとえ防災について周知したとしても自分事として聞き入れてもらえないケースも十分に想像できます。情報を他人ごとにせずに、当事者意識を持たせたうえで説得していくためには本文で述べたような新聞や写真といった生きた情報をもって周知していくことが重要ではないかと私は考えています。
豆知識
令和元年度の東京消防庁の予算(当初予算)は約2556億2300万円!
※参考:
東京都予算案の概要 P93
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