【堺市消防局H19年度】公務員の原点は「市民全体への奉仕者」にあります。公務員志望者であるあなたはこのことについてどのように考えるか
堺市消防H19年度
公務員の原点は「市民全体への奉仕者」にあります。公務員志望者であるあなたはこのことについてどのように考えるか述べよ。
の解説、解答例の記事になります。
まずはヒント編を読み論文の骨格を作る練習をしてみましょう。解説は解答例の次にあります。
<ヒント編>
―はじめに―
今回の問題は東京消防庁ではなく堺市消防局からのものになります。理由としては読者の方に改めて消防士含めて公務員は「市民への奉仕者」であることを心得て欲しいというシンプルな事項からです。それではヒント編から。
1:論題分析
問題文はやや抽象的です。
公務員は「全体の奉仕者」であるということについて「あなたはどう考えますか」とあります。この「あなたはどう考えるか」の解釈がやや難しい所であり、論文を組み立てていく際に慎重にならざるを得ません。
ご存じの方も多いかと思われますが公務員が「全体の奉仕者」であることは法律によって定められているものであり、公務員になる以上この理念には絶対に従わなければならないものであることは間違いありません。
そのため「どう考えますか」と聞かれているのだからといって反対意見や代替意見を持ち出すと採点される前に失格になる恐れがあるので注意です。
ではどのように論を展開するのかというと、「市民への奉仕者」であることを理解した上でどのように働いていきたいかと述べていくといいかと思われます。
2:構成
分析が終わったところで構成を決めていきます。
まずは問題文で問われていることに対し自分の意見を1段落目で述べてしまいましょう。それ以外の事項(ex:公務員の不祥事・全体の奉仕者の定義etc…)はこの時点では一切述べる必要がありません。
ヒントとしては上述のように「市民全体への奉仕者」という言葉から、自分がイメージする公務員としての働き方や意識をあげることです(ここが一番大事で、ご自身でもよく考えて頂きたい部分です)。
1段落が完成したら、次に必要なものがその理由です。なぜそのように述べたのか、自分の知っている知識やニュースを動員し説明をします。
最後に、どのようにして「全体の奉仕者」の理念を実現していくかを具体的に述べていきます。
3:練習
ウォーミングアップが終わったところで実際に書く練習をしてみます。構成は上で見た通りです。
①:「全体の奉仕者」であることを忘れず、どのように意識を持ち働くか。(約100字)
②:そのように考えるのはなぜか(約100字)
③:①で述べたことを実現していくため具体的にどのように働いていくか(約100字)
<解答例>
「市民全体への奉仕者」という言葉から、私は公務員として働くにあたり市民からの信頼を得られるように意識しなければならないと考える。理由としては地域の防災訓練参加の依頼や消防車両の緊急走行時に道を譲ってもらうこと、事業所ごとに防災訓練の計画作成や訓練実行等市民や事業者の協力を必要とする場面も多いからである。消防行政を遂行し災害に強い街づくりを実現するためにはこのような市民からの無償の協力が必要不可欠である。逆に言えば、日々市民からの信頼関係を積み上げていくことが結果として市民や地域全体の利益へとつながっていくのである。ただ、一口に信頼関係といっても私は2種類の築き方があると考えている。1つは災害の無い平時に市民対応する際に構築していくこと、2つ目は災害時に市民からの期待に応えることで構築する方法である。
まずは平時からの構築について私は誠実な対応を行うよう心掛けたい。具体的には、いかなる時でも当庁の顔となってもいいように身だしなみから気を付けたい。また、平時においては市民の方々が署や出張所問わず様々な理由で来庁されることが予想できる。その際には自分の担当業務外のことであったとしても、すみやかな引継ぎや案内を率先して行うことを通じて来庁者をなるべくお待たせしない対応をとれるよう努めたい。これに関しては駅員のアルバイト経験で学んだお客様第一の心掛けが活かせると考えている。すなわち常に身だしなみに気を付け、自分で制服を手入れし駅の顔として従事すること及び様々な事情を持った方々に対する迅速なご案内の心掛けを活かしていきたい。
次に災害時に市民からの期待に応えるため、私は常に自己研鑽や訓練を欠かさず実行し一日でも早く現場において消火や救急、救助の力となれるよう努めたい。具体的にはポンプ隊に配属になった際は後輩が入ってくる1年後を目途とし、1人前の隊員として振る舞えるよう体力、技術面で常に向上心を持ち続けていきたい。例えば日々の体力トレーニングや管轄内の道路の把握、放水技術の習得等を常に意識しながら業務に打ち込んでいきたい。また、ポンプ隊は火災現場においては消火作業だけでなく、救急隊や救助隊、はしご隊と連携し人命救助にあたる場合もある。そのため、私は所属の署内において救急隊や救助隊、はしご隊が訓練を行っていれば可能な限り参加したり、見学をしたい。それを通じそれぞれの部隊活動と連携する際に必要な事項を学んでいきたい。そして、まずは消火のプロとして市民の期待に応えることで信頼関係を構築し、上述したように結果として市民全体の利益へと繋げられるよう働きたい。
<解説編>
1:構成
1段落(結論・その理由)
・「市民全体の奉仕者」として市民の信頼を得られるよう働く
・防災訓練参加依頼や緊急走行時に道を譲ってもらう場面等、市民からの無償の協力が必要だから。
2段落(信頼関係の構築・平時にて)
市民に誠実な対応・身だしなみの徹底・市民が来庁された際のスムーズな案内を意識
3段落(信頼関係の構築・災害時の市民からの期待)
常に自己研鑽や訓練・自主的なスキルの養成を通じたポンプ隊員としての成長を目標・災害時に市民からの期待に応え、結果として市民全体の利益へと繋げる
2:解答には自分の考える理想の公務員像が自然と現れている!?
ヒント編ではあえて述べませんでしたが、この論題は解答していくことで自分の中に潜在する「理想の公務員像」が自然と現れてくる非常に良い問題といえます。
それは1段落目で述べることになる「全体の奉仕者」という理念を前提としてどのような意識を持って働くかを考えさせているからです。そこには自分の公務員として働く理想像が現れ、さらにはその理由、具体的にどう行動(働く)するかまで一貫して考えさせるトリックが仕掛けられており非常に素晴らしい問題であることは間違いありません。
(※解答例もほぼ同じような構造ですが、結論➡理由➡具体例という小論文の構成ルール上このようにならざるを得ないので決して後出しで述べているわけではありません。ご了承ください。)
解答例では「市民からの信頼」を軸に解答していますが、読者の方はどのような解答をされたでしょうか。この手の問題は決して解答は一つではなく、受験生の人数分あると思っていいでしょう。
常に公務員の仕事や対象となる地域、人々について考え、どのように働きたいかを考えているかが問われていると思っています。2021年度の東京消防庁Ⅰ類のDXデジタルトランスフォーメーション問題なんかとは比にならない非常に素晴らしい問題ですね。
3:消防業務の特殊性―個人の利益と全体の利益―
余談ですが、ここで消防業務の特殊性について考えてみたいと思います。消防で一番優先されるべき業務は消火、救急、救助といった人命や財産の保護であることはご存じかと思います。いうなれば困っている人を救う(個人の利益を実現する)仕事とも表現できますが、次のような場面があるとしたらどうでしょうか。
・あなたは救助隊の隊長として5階建てマンションの火災現場に到着
・建物からは激しい炎が上がっており、消火は困難を極め内部に侵入できない状況
・屋上にはそれぞれ他人である成人(♂)、子供(♀)、老人(♂)、妊婦、障がい者(♀)が1人ずつの計5人取り残されている
・安全な場所に避難している人々の中には彼ら5人の家族や知人がおり、それぞれが隊長のあなたに取り残された人の救助を懇願している
隊長であるあなたはこのような場面で「誰から優先的に助ける指示を下すか」という問いです。
新しい命を抱えている妊婦でしょうか?
何らかのハンデを負っている障がい者でしょうか?
一言で言ってしまえば、この問いに正解はありません。現場の状況を判断して一番効率的に活動し、一人でも多くの命を助けるというスタンスで臨むしかありません。
このスタンスの下、無事に全員救助できる場合もあるでしょう。しかし、状況によっては間に合わずどうしても助けられない場合もあります。
実はこの「一番効率的に活動し、一人でも多くの命を助ける」判断が消防側としての「全体の利益」を実現するにあたって重要になってくるわけです。
困っている人を救いたい(個人の利益実現)という気持ちで消防士になれたことはいいものの、場合によっては「全体の利益」実現のために「命の選択(救助の優先順位付け)」に直面するかもしれないことを覚悟して頂きたいと思います。
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