資料「主な出火原因別火災件数」から読み取れる課題と対応策について、あなたの考えを具体的に述べなさい。
特殊救急車 (東京消防庁 第3消防方面本部 消防救助機動部隊)
資料「主な出火原因別火災件数」から読み取れる課題と対応策について、あなたの考えを具体的に述べなさい。(令和元年2回目)
の解答例と解説記事です。まずはヒント編を参考に、自身で簡単に論文を作ってみてください。
※参考にする資料は平成30年度中の統計に基づくものですが、今回は2021年4月時点で最新のもの(令和2年版火災の実態―主な出火原因別火災件数―)を参考にしていきます。お手数ですが資料の確認については自身で検索を行ってください。「東京消防庁__火災の実態」で検索し、『令和2年版火災の実態』の11ページ目「主な出火原因別火災件数」です。
<ヒント編>
―注意―
今回の解答、解説ですが、もともとの問題文では平成30年度の資料を参考にするものでした。しかし時代は変わり、火災原因にも変化がみられるようになってきました。そこで今回は東京消防庁公開の『令和2年版火災の実態』の11ページ目「主な出火原因別火災件数」を参考にして解説をしていくこととします。
1:論題分析と構成
今回の論題はシンプルです。与えられた資料から課題点を指摘し、それに対する自分の考える対応策が書ければ問題ありません。
ただ気を付けておきたいのは指摘する課題の数です。1つだと指定字数に届かなかったり、逆に3,4つも指摘してしまうと字数超過になる可能性があります。この手の問題では2つ上げるのが論文のバランスとして適当であると考えています。
よって、構成としては
1段落目:課題1と課題2について
2段落目:それらに対する自分の考える対応策
1段落目:課題1とその対応策
2段落目:課題2とその対応策
のどちらかに決められます。どちらの型でも正解にはなりますが、私としては前者の型が好みです。理由としては課題文の問いの大前提である「課題を上げる」ことについて文章の早い段階で読み手に伝えることができるからです。こうすることで読み手側は安心して読むことができ、また段落が変わった段階で「課題への対策」が書かれていると予想しながら読めるからです。
2:資料の注目点
構成が決まったところで、資料のどこに注目して課題を見つけるかについてみていきます。
本ブログを熟読してくれている方には常識かもしれませんが、この手の資料問題を解く際は「比較の視点」が重要です。つまり資料を一部だけ見て判断するのではなく、すべての要素を比較した上で課題を浮かび上がらせる必要があります。例えば平成30年から令和元年にかけてどの原因による火災がどれだけ(約何%)増えたのか(あるいは減ったのか)丁寧に把握していきましょう。
3:練習
ウォーミングアップが終わったところで実際に論文を作る練習をしましょう。構成は先ほど見た前者の型を使ってみます。
1段落:課題1と2(※課題数は2つまでが望ましい。資料の比較も忘れずに。150字程度)
2段落:それらに対する自分の考える対策(150~200字程度)
<解答編>
資料から読み取れる課題は2つある。一つ目はプラグや屋内線といった電気系の要因による火災の増加率が高いことである。二つ目は令和元年になって火災原因の一位が放火ではなくタバコとなった点である。具体的に見てみると、前年との比較でプラグは約24%増、屋内線は約30%増と他の原因と比べて圧倒的に高い増加率を記録している。タバコや放火と比べると件数はまだまだ少ないものの、このまま放っておくわけにはいかない原因と考えられる。次にタバコによる出火件数が放火を上回ったことについては、例えば寝たばこをしないことや吸殻をポイ捨てしない等の意識一つで予防できる事案なだけにこちらも優先的に対策を講じていくべきだと考える。
これらの課題への対応策として、私は自分事として火災予防に取り組んでもらえるよう呼び掛けることを上げたい。特に屋内線やプラグを原因とした火災は火が直接的な原因とはならないものであり、どのような行動がその火災予防につながるかイメージしづらいケースが考えられる。しかし実際は定期的な点検やプラグの清掃といった簡単な行動意識一つで十分防げる火災であることも事実である。そこで私は例えば防火防災診断で個人のお宅に伺う際には電気火災の原因となった電気製品やプラグの実物を持参し、実際に身近なものが火災の原因になりうることを理解して頂くことを対策として上げたい。そしてどのようなことが電気火災の予防になりうるか自分事として捉えたうえで行動してもらえるよう呼びかけを行っていきたいと考える。
次にたばこの火災についても同様である。例えば防火防災訓練の機会を利用し、マネキンと布団を用いた寝たばこ実験セットを使いどのように火災が発生するのか実際に見てもらうのである。特に寝たばこによる火災は通常の火災とは異なり無炎燃焼が発生し、室内に一酸化炭素が充満する性質がある。この様子を実際に都民の方々に見てもらい、この火災の恐ろしさを知ってもらうのである。これを踏まえたうえで寝たばこは絶対にしないことはもちろん、カーテンや布団は防炎製品を使うこと、火災報知機の設置を促していきたい。
以上、2つの課題に対する対応策を上げたが、電気、タバコどちらの火災も無意識のうちに自分で原因を作ってしまう場合があることが共通している。今後コロナ禍で巣ごもりが進む中、このような火災の発生は常に社会にリスクとして潜在し続けることが考えられる。その対策としてあげた取り組みは非常に地道な活動になるが都民の方々に実物を見てもらった上で火災予防に取り組んでもらうことこそ安全安心な東京の実現につながってくると私は考える。(1083字)
<解説編>
1段落:課題(電気系火災の増加率が圧倒的に高いこと、タバコ火災が1位になったこと)
2段落:対策(実物を見て感じることで自分事として捉えてもらう)
3段落:まとめ(コロナ禍で今後このような火災が増える。意識改善が安全安心な東京へ)
の構成となっています。
2:資料の注目点
私が今回注目したのが差し込みプラグや屋内線といった電気火災の増加率です。ちなみに全原因のおおよその増加率がこちら↓↓↓↓(平成30年から令和元年)
タバコ―約6%増
放火-約9%減
ガステーブル―約12%増
大型ガスコンロ―約11%増
プラグ―約24%増
電気ストーブ―約16%増
コード―約8%増
屋内線―約30%増
溶接―約23%増
こうしてみるとタバコは火災原因としては1位ではありますが前年比約6%増加なのに対し、プラグや屋内線は件数こそ少ないものの増加率はタバコの4倍以上という驚異的な数字を記録しています。
ただ資料を流し見しただけではタバコや放火火災が多いという印象しか受けません。しかし、きちんと「比較の視点」を持って資料を丁寧に見ればじつはタバコや放火の陰に隠れた電気火災という「新しい火災の脅威」が見えてくるのです。ここに気付いて解答できるかが他の受験生との差が付くポイントだと思っています。
3:寝たばこ火災の恐怖―忍び寄る炎と一酸化炭素―
本文でも述べましたが、寝たばこ火災の特徴は「無炎火災」と「一酸化炭素」です。
詳しくは検索して調べて頂きたいのですが、「無炎火災」とは炎は上がらずにくすぶった状態で燃焼し続ける火災のことです。そしてそのくすぶりが拡大した結果、発火しやすい物に到達した瞬間に炎が発生する仕組みです。実験映像を見てみるとその様子はまさに「忍び寄る炎」であり、発生に気付かないケースも十分に考えられます。
そしてもう一つ注目したいのが「一酸化炭素」です。
無炎火災が進行することで発生する無色無臭の有毒な気体なのですが、実は体内に入ると体が動かなくなったり、失神、最悪の場合死に至ることもあります。以上のことから寝たばこ火災は「忍び寄る炎」と「一酸化炭素」が同時に人を襲う恐怖の火災であるといえます。
ただ、このようなことは学校で習うケースはほぼないと思います。ということは常に火災と戦い、その恐怖を知っている消防士たちが実際に防災訓練の機会などを通じて都民の方々に伝えていくことも重要な仕事ではないでしょうか。
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