令和5年度東京消防庁Ⅰ類1回目 「消防職員の使命についてあなたの考えとその達成に向けてあなたができることを述べよ」

2023年10月10日火曜日

10t水槽車 杉並SL(東京消防庁 杉並消防署)

令和5年度東京消防庁Ⅰ類1回目

「消防職員の使命についてあなたの考えとその達成に向けてあなたができることを述べよ」

の解答例、解説記事になります。

 

まずはヒント編を読み、論文を書く練習をしてみます。

 

<ヒント編>

論題分析―「やりたいこと」ではなく「できること」。自己PRの場―

論題はシンプルで、「自分の考える消防職員の使命」と「その達成のために自分ができること」の順番で記述できればOKです。

 

ここで気になることは「消防職員の使命」です。まずここで明確に定義しておかないと次の「達成のために自分ができること」へ展開ができなくなってしまいます。

 

よって記述していく際は「消防職員の使命」を明確にしたうえでその達成のために自分ができることを逆算し、それを裏付けられるエピソードや理由を加えていく流れになります。ちなみにですが問われていることは「自分ができること」です。「自分がやりたいこと」ではない点に注意を払い、慎重に記述していきましょう。

 

②練習

ウォーミングアップが終わったところで実際に論文を書く練習をしてみます。下記の項目をそれぞれ簡単に埋めてみてください。

 

「消防職員の使命とは」(50字程度)

「その達成のためにできること(やりたいことではない点に注意)」(150字程度)

 

 

<解答例>

消防職員の使命とは都民の生命、身体、財産を災害から守ることである。ポンプ隊員として働きたいと考えている私にとってその達成のために私ができることは常に訓練に取り組む意識を持つことだ。ポンプ隊はPA連携での救急隊との連携、はしご隊と連携した放水や救助隊の屋内侵入時の放水支援等、消火以外にも多様な役割を担っている隊である。このように多様な役割を担っていること、また同じ災害現場は一つとしてないと言われていることを考慮すると災害への対応時には想定外の事態はあってはならない。その想定外を想定内に収めるために必要な事が常に訓練に取り組む意識であると私は考えている。そして日々訓練を積み重ねていくことでいかなる災害に対しても対応が可能となり、それが都民の生命、身体、財産の保護という消防職員の使命達成につながっていくのである。

 

上記のように考える理由として実際にポンプ隊として働いている方に話を伺った経験が上げられる。その方が所属する隊は1週間におおむね3、4回の出動があり、特に火災については1回あるかないかの出動頻度とのことであった。確かにいつ出動になるか分からないにしても少ない頻度ではある。しかしその11回が命の懸かった現場であり11秒を争う真剣勝負が求められる仕事であると仰っていた。それを踏まえた上でポンプ隊員として重要なことが常に訓練や装備品の点検、時間短縮の創意工夫に取り組む意識を持つことだと仰っていたことが一番印象に残った。つまり1回の出動の裏には日頃から多くの時間を訓練等に費やした積み重ねがある。そしてそれがあるからこそいかなる災害にあっても都民の生命、身体、財産を守る使命の達成につながっているのだと気付かされたのである。

 

消防士のプロフェッショナルな意識に圧倒されつつも自分のどのような部分が仕事に活かせるか考えたところ、大学で所属している空手サークルでの経験を思い立った。現在月に12回ある試合のために月曜日から金曜日まで各日4時間ほどの練習や体力錬成に取り組む日々を送っている。試合で相手と戦っている時間より日々練習している時間の方が圧倒的に長いのである。大学で空手を始めたことで勝負の世界に足を踏み入れることになったわけであるが、その勝負でいい結果を残すためにはやはり日々の努力が重要であることを痛感できたのはいい経験であった。上記で述べたようにポンプ隊員の方に話を伺った際、11秒を争う真剣勝負の仕事観に私は圧倒された。しかし一時の勝負のために常日頃から努力を積み重ねる意識に対して共感することもできた。私は消防職員として採用された際、空手サークルで培った真剣勝負に対する日々の努力意識を活かすことができると考えている。そしていかなる災害においても都民の生命、身体、財産を守る使命を達成できるポンプ隊員になりたい。

 

<解説編>

構成

構成としては、

1段落「消防職員の使命について」

2段落「そのように考える理由」

3段落「自分ができること・まとめ」

 の構成となっています。

今回は123段落ともほぼ同じ字数での記述にはなっています。しかし2段落目の理由を少し削り、3段落の「自分ができること」をより多めに記述するとより良い答案になるかと思います。今回の論題はここが問われているためです。

 

②「消防職員の使命」とは―答えられないと即足切り―

ヒント編では触れなかった「消防職員の使命」について見ていきます。

小論文の解答なので十人十色の答案があって当たり前ではありますが、私はこの「消防職員の使命」については確実に一つの答えしかないと思っています。

それは「都民の生命・身体・財産を守ること」です。(地方消防なら「市民の生命・身体・財産を守ること」)

これが答えられなければ大幅減点されるといっても過言ではないと考えています。私が採点者であったらこの言葉が見えなかった時点で不合格にします。令和3年度のDX論題のような「知っていたら合格、知らなかったら不合格」を意図的に分ける劣悪論題については大反対の立場です。

 

しかし今回のような「消防士になるにあたって最低限知っておかなければならない事項」を問う問題については賛成です。今回は消防職員の使命である「都民の生命身体財産を守る」ことを知っているかどうかを問い、更にその使命達成について「自分にどのようなことができるか」を重ねて問うことで「消防という仕事への向き合い方」を考えさせる非常に良い問題であると思いました。ただ漠然と「消防士になりたい」と考えているだけでは到底解答できない論題です。

 

今回はポンプ隊を希望する視点での解答でしたが、他にも救急や救助、予防や査察といった職種から解答してももちろんOKです。ただそれらの職種を通じて使命を達成するために「自分に何ができるか(何がしたいかではない)」という要素を入れる必要があることを忘れてはなりません。

 

 

③「~のだ」構文―大学受験生時代に国語の講師から教わったテクニックとは―

少し話がずれますが、本文中に「~のだ。」「~のである。」という語尾で終わっている一文がところどころあります。

これは私の中で「~のだ構文」と呼んでいる文法で、簡単に言うと直前の文章を補足、説明する機能を持った一文を作るテクニックになります。つまり最初に簡単に説明しておき、次の文でもう少し詳しく説明を付け足すといったイメージです。

本文中での実際の使われ方を見てみます。

2段落後半より

「それを踏まえた上でポンプ隊員として重要なことが常に訓練や装備品の点検、時間短縮の創意工夫に取り組む意識を持つことだと仰っていたことが一番印象に残った。」

「そしてそれがあるからこそいかなる災害にあっても都民の生命、身体、財産を守る使命の達成につながっているのだと気付かされたのである

まさに直前の文章を補足、説明することでより自分の主張が伝わりやすくなっていることが分かります。逆にこれら2つの文を1文にまとめてしまうと100文字近くまで膨れてしまい、読み手が理解しづらくなってしまいます。

 

小論文の解答にあたって字数稼ぎはご法度です。見苦しいです。

しかしこの「~のだ」構文を使うことで1文を2文に増やし、なおかつ読みやすく仕上げることができます。これは私が大学受験生時代の頃に予備校の国語講師から教わったものなのでぜひ使ってみてください。ただ、使いすぎると逆に文章全体のリズム感が鈍るので注意が必要です。


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