令和4年度東京消防庁Ⅰ類2回目 「今後の社会情勢をふまえ質の高い行政サービスを提供するために、消防官としてあなたが取り組むことを述べよ。」

2023年9月19日火曜日

即応RF4(東京消防庁 即応対処部隊)

令和4年度東京消防庁Ⅰ類2回目

「今後の社会情勢をふまえ質の高い行政サービスを提供するために、消防官としてあなたが取り組むことを述べよ。」

の解答例、解説記事になります。


まずはヒント編を読み、論文を書く練習をしてみます。


<ヒント編>

➀論題分析

今回の論題は抽象的なものとなっています。

「今後の社会情勢」といわれてもピンとこない方もいるかもしれません。

そのような時は消防という大きなくくりの中で自分が志望する職種(消火、救急、救助など)から逆算して考えるといいでしょう。

つまり消防の中で自分がどのような職種を志望していて、かつその職種は現在の社会情勢においてどのような課題に直面しているかということを考えればいいわけです。

そして、その課題に直面する中で自分が消防職員として質の高い仕事をどのように実行していくかということが問われています。


②練習

ウォーミングアップが終わったところで実際に論文を書く練習をしてみます。下記の項目をそれぞれ100字程度で埋めてみてください。


「自分の志望する職種(消火、救急、救助など)はどのような課題に直面しているか」

「その職種で自分はどのように質の高い仕事を行っていくか」

「そのように考える根拠」



<解答例>

現在、少子高齢化が進展する中で高齢者の比率が高まり、救急隊としては事故や急病での患者対応が増えることが予想できる。実際令和4年度に救急搬送された全患者の内、75歳以上の方が占める割合は約40%である。このような状況の中で質の高い行政サービスを提供していくために私が取り組むことは救急隊員として患者と対話を重ねられる職員を目指すことである。このように考える理由として、駅員のアルバイト中の経験が上げられる。業務開始後に私がホームへと向かおうとしたところ、一人のお客様が階段最上部から足を滑らせて床まで転落するのを目撃した。全身に激痛があるとのことだったので救急車を要請し、目撃者である私も立ち合いの下に様子を見守った。そこで目にしたことは患者と丁寧に対話を重ねる救急隊員の姿であった。全身が痛むとはいうものの、具体的にどこが痛むのか冷静に問診や触診を重ねて応急処置の準備を行っていた。結果として右腕と左足首の骨折が疑われると判断され、それらの応急処置をした上で患者を搬送していった。


私は救急隊の仕事といえば1分1秒でも早く患者に応急手当を実施し、病院まで搬送することが任務であると考えていた。確かに素早い患者対応や搬送は重要である。しかしそれ以前に患者と丁寧に対話を重ねることで患部の特定や、それに応じた応急処置を確実に実施することもまた重要であることを思い知った。このステップが雑になってしまうと後遺症が発生し、社会復帰に支障をきたしてしまう可能性すらある。現に令和4年のデータでは搬送された全高齢者の初診において中等症以上であったケースが半数以上を占めている。そのため、特に高齢者対応の際は救急隊による初動対応が重要であることが分かる。


このことから私は救急隊員として質の高いサービスを提供していくため患者に対し丁寧にヒアリングを重ね、迅速に適切な応急処置が実施できる職員を目指して業務に取り組みたい。そのためにも、今携わっている駅員のアルバイトにおいてもお客様との丁寧な対話を重視した仕事を行っていきたい。例えば改札付近での案内業務では道案内や落とし物の相談、目的地までの乗り換えや切符の購入等様々な案件が老若男女問わず寄せられる。急いでいる方が大半ではあるものの、確実な案内が第一であり、雑な案内はご法度である。そのためにも落ち着いて丁寧に相手の言っていることを理解し、分かりやすく案内することを意識していきたい。そしてこのアルバイトで培った対話する意識を消防職員として質の高いサービスを提供するさいに活かしていきたいと考えている。



<解説編>

➀構成

構成としては、

1段落「救急業務が直面する課題・どのように自分が質の高い仕事を行っていくか・その理由」

2段落「救急業務に対する認識の変化」

3段落「まとめ」

の構成となっています。


ポイントとしては論題にもあるように「今後の社会情勢」を踏まえることです。

ただこの社会情勢の記述をダラダラ長くとってしまうと減点の恐れがあります。採点者が見たいものはあくまで「あなたが消防士として質の高い仕事をどのようにおこなっていくか」です。


よって社会情勢については2行以内、長くても3行以内にとどめ、

「どのように質の高い仕事を行っていくか」

「そのように考える理由」

の2つにボリュームを持たせて記述していくことが重要です。


※あと、今回使用した救急関連のデータは東京消防庁から公開されている「令和4年救急活動の現況」を使用しました。気になる方は検索してみてください。


②アルバイト中に目撃した転落事故と救急対応

本文で述べたお客様転落事故について詳しく紹介したいと思います。

私は駅員アルバイトとしてラッシュ時間帯の7時から10時半までのホーム監視要員として持ち場に向かって階段を上ろうとしていたときでした。

たまたま上を見ながら階段を上っていると70代ぐらいの男性が片手に荷物を持ちながら階段を降りようとしているのが見えました。その直後バランスを崩したのか足を滑らせて転倒し、20段ほどある階段をそのまま一番下まで転がるように落下してしまいました。

私はすぐさま男性に駆け寄り、「大丈夫ですか?」「歩けますか?」「どこが痛みますか?」と声掛けしたものの、男性はうめき声と「痛い」としか声が出せない状態でした。

上司と共に担架で駅事務室に搬送し、駅長に救急車を要請してもらいました。



3分ほどで救急隊が到着し、私は目撃者として救急隊長の方に事故の証言をしました。証言をする傍ら、患者対応をする隊員を見ると本文にもあるように非常に丁寧な問診と触診を実施していました。すると最初はひたすらうめき声と「痛い」としか声が出せなかった男性も、隊員の落ち着いた問いかけに冷静さを取り戻したのか徐々にヒアリングに応えられるようになっていきました。結果として本文にもあるように右腕と左足首の骨折が疑われると判断され、その応急処置をしたうえで搬送していきました。


緊張をともなう場面でも冷静に患者に向き合う救急隊員の姿を見て、これまで自分が救急隊の仕事を誤解していたことを思い知らされました。以前は1分1秒でも早く患者を病院へ搬送するのが任務であると思っていましたが、患者と接する初動対応もまた重要な要素であると実感した経験となりました。その時に重要なことが患者にヒアリングすることすなわち対話を行い、確実な応急処置を施して痛みや苦しみ、不安を和らげることも重要だと感じました。



③救急車の有料化は検討するべきか?―イスラエルの保育所の事例から考察する―

今回は救急の仕事という側面で解答例を示し、救急を取り巻く課題として少子高齢化をあげました。

一方で「年々増加する救急出動件数」もまた大きな課題として存在しているわけで、これを改善していく案の一つに「救急車の有料化」があげられているわけです。

この「救急車の有料化」が本当に有効かどうか議論する上で参考になる面白い本を読んだので紹介したいと思います。


タイトルは

「それをお金で買いますか―市場主義の限界―」(マイケル・サンデル著)早川書房

です。

それをお金で買いますか 市場主義の限界

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内容としては

この世のあらゆるものが金によって取引できる時代になってしまったことで、人々のモラルの崩壊や不公平感を招いてしまう

何でもかんでも市場原理を持ち込むのではなく、どのようなものがお金で取引するべきものか、そうでないものなのか人々が互いに議論するべきである

といったものです。

中でも興味深かったものがイスラエルの保育園で見られた事例の紹介でした。

要約すると

・イスラエルのとある保育園では保護者が子供の迎えの時間によく遅刻することが問題になっていた

・園側は遅刻に対する罰金制度を設けた

・しかし遅刻率が改善するどころか増加してしまった

・保護者は園の設定した罰金を「遅刻していいコスト(料金)」と認識してしまった


といった内容です。つまり罰金(ペナルティー)として設定したはずの料金が逆に遅刻していい権利を買う料金と認識されたという結果になったわけです。モラル崩壊の事例ですね。


ここで考えたいことが先に述べた「救急車の有料化」です。救急車に料金設定すれば安易な要請が抑えられる、あるいは安易な要請に対する罰金といった意味合いと考えられます。


しかしイスラエルの保育所の事例を見ると本当に効果があるのか疑問に思えてきます。すなわち罰金として設定したはずが、逆に「簡単に救急車を呼ぶコスト」として解釈されるおそれがあるということです。


保育園と同様に減少するどころか増加に促進がかかり、さらには「料金を払っているんだから早く病院に連れていけ」と利用者がモンスター化するケースも容易に想像できます。


また設定する金額にもよるでしょうが、生活が困窮している状態ですぐにお金が用意できない人が通報をためらってしまうケースも考えられます


まさに「モラルの崩壊」と「不公平」です。あなたはどう考えますか。


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