近年、救急現場において生じている変化および問題点とは(DNRとは)

2019年7月26日金曜日

渋谷消防署から出動する渋谷救急(東京消防庁 渋谷消防署)
 
突然ですが、朝日新聞(2019625日日刊の1面)にて近年救急の現場で起こっている「ある変化」について取り上げられたことをご存じでしょうか。

 
それは通報により駆け付けた救急隊に対し、患者の親族が蘇生処置の中止を要求するケース(DNRとよばれる)があるというものです。



 普通であれば命の危険がある者を救ってほしいがために救急隊を要請するはずです。しかし、「終活」といった言葉にみられるように「どこで、どのように最期を迎えるか」をあらかじめ患者自身あるいはその親族が決めており、その中に「症状が悪化しても蘇生は望まない」ことをふくめている場合があります。



 ちなみに、事前に最期の迎え方を決めていても救急隊を呼んでしまう理由としては「夜間のため、主治医と連絡が取れなかった」「つい気が動転してしまった」ということが記事内で上げられています。


●何が問題なのか 
―ルールと患者の意思の板挟みになる隊員―

 例えば所属する消防本部において蘇生中止対応に関するルールが全く定められていない場合を想定します。

その際にこのような蘇生中止の求めに応じてしまうと、消防本部の救急ルールに無いことを実行してしまっているということ。

 逆に救急ルールの順守や使命感のため蘇生中止の要求に反して処置を行った場合、患者や親族たちの意思に背くことになるということです。

 つまり、救急隊員はどちらの選択を取ろうとも何らかのリスクを負わなければならない場合があるということです。しかし、広島市消防局埼玉西部消防局等の一部の消防本部はこのような場面において一定の条件をもとに蘇生を中止できるとする取り組みを行っています。※20193月時点
(広島市消防局:主治医に連絡し、蘇生中止の要求が確認できた場合)
(埼玉西部消防局:専用の書類及び主治医への確認ができた場合)
救急業務のあり方に関する検討会報告書のp20~p28より


※東京消防庁はかかりつけ医の指示が確認できれば蘇生を中止するマニュアルを2019年度中に運用する予定。
参考:Youtubeより

※追記
2019年12月16日より東京消防庁も「家族等からの蘇生を望まない意思表示」「かかりつけ医等への確認」ができれば蘇生を中止する対応を運用開始しました。
東京消防庁報道発表資料2019年11月20日より>




●解決するためには

 救急隊員たちがルールと患者の意思との板挟みにならないためにしなければならないことは国が法律を策定全国でこのようなケースへの対応を統一するべきでしょう。しかし、これは人の生命や法律にかかわる問題の為、安易には決定できないことは確かです。

 第二には蘇生するしないに関わらず、少なくとも消防本部ごとに明確な救急ルールを定めるべきでしょう。同じ消防本部内で要望通り蘇生を中止した事例と要望に背いて蘇生を続けて病院に搬送したという事例が共存することはあってはならないはずです。住民に公平に対応するのが公務員の仕事であり職員ごとに異なる対応があってはなりません

 ちなみに総務省消防庁では201973日に行われた検討会にて「かかりつけ医が蘇生中止を判断できる」との案をまとめました。あくまで「案」であり決定ではない。
朝日新聞デジタル(201973日)より



●蘇生中止を要求された場合、あなたならどうしますか

 仮に自分が消防採用試験に合格し、将来救急隊に配属された際に直面しないとは言い切れない場面です。その際に、私の考えとしてはなるべく患者や親族の意思を尊重する選択をすべきだと思っています。理由としては私の祖母を看取った経験が上げられます。

 私の祖母は90歳を迎えた頃から寝たきりになってしまい、最終的には話すこともできなくなってしまいました。そして嚥下(えんげ:食べ物などを飲み込む)力の低下でしばしば痰のつまりによる呼吸困難を起こし、その度に救急隊に応急処置をしてもらっていました。しかし、祖母の苦しそうな顔を見るたびに果たして救急隊を呼ぶことがいいのかどうか家族や介護施設の方とも話し合いになりました

 もちろん命の危険があり救急を呼ばなければならないのは確かですが、今後何度も苦しい思いをするぐらいだったらそのまま看取ってあげてもいいのではないかという考えも出ました。(最終的には自然な老衰により苦しむこともなく亡くなりましたが)

 今後、高齢化が進むことで高齢患者の最期の看取り方を事前に決めている家族が増えることと思います。しかし、実際にそれを決めていたとしても主治医が不在だったり、気が動転したことで思わず119番通報してしまうケースもあります。

 

 ーーもしあなたが救急隊員としてこのようなシーンに直面し、所属消防本部に蘇生中止に関するルールがなかった場合どうしますか。

 使命感や消防本部のルールに基づき蘇生しますか、主治医や看護師の確認を取り家族の了承を得たうえで蘇生を中止しますか。ーー


●豆知識―DNAR対応とは―

DNAR対応とは患者やその親族による蘇生中止要求に従い、救急処置を行わないこと。正式名称は Do Not Attempt Resuscitation 。実施に当たっては患者やその家族の意思、主治医や看護師への確認が必要となる。
日本救急医学会医学用語解説集より


●おわりに

 今回参考にしたものは朝日新聞(2019625日日刊の1面と2面)で、救急隊を目指している方以外も一度目にしていただきたい記事です。

 過去の新聞は地元の図書館ですべて閲覧できるようになっているはずなので、時間があるときに業界研究もかねて読みに行ってみてください。





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