総仕上げの回

いよいよ最終回です。第1回から第4回までに学んだ、基本の型、論題の読み解き、具体的理由のつくり方、表現と推敲を、本番に近い形式で一度に使います。今回は解説よりも、実際に書くことが中心です。解答例を見る前に、必ず時間を計って自分の答案を仕上げてください。


本番の時間配分

60分で800字程度の答案を書く場合の、時間配分の目安です。

工程時間やること
論題の分析5分テーマ・考え・具体的理由の3要素と、字数などの条件を確認する
構成メモ10分考え、理由、具体(状況・行動・結果・学び)、懸念と応答、結論を書き出す
執筆35分メモに沿って、序論・本論・結論の順に書く
推敲10分チェックリストで見直し、誤字と字数を確認する

時間が足りなくなる人の多くは、構成メモが曖昧なまま書き始めて、途中で迷っています。構成メモの10分は、必ず確保してください。


実戦問題

問題A(必須・価値観型)

あなたが考える「働くうえで大切なこと」について、具体的理由と共に述べなさい。(800字以内、制限時間60分)

問題B(発展・社会・時事型)

生成AIが仕事の現場に広がっていることについて、具体的理由と共にあなたの考えを述べなさい。(800字以内、制限時間60分)

まず問題Aを時間を計って書き、自己採点をしてください。余裕があれば、問題Bにも取り組みます。問題Bのように立場が分かれやすい論題では、「歓迎か警戒か」と大づかみにせず、「どの場面で」「何を重視するか」まで絞って、考えを一文で決めることが出発点です。


自己採点ルーブリック

書き終えたら、次の4観点で自己採点します。各5点、合計20点満点です。

観点5点の基準3点の基準1点の基準
論題への応答テーマ・考え・具体的理由の3要素がそろい、条件も満たす一部の要素や条件が不十分論題の要求から外れている
論理性考えが冒頭で明確で、理由が考えに直結し、一貫している考えはあるが、飛躍や途中のぶれがある考えと理由がつながっていない
具体性経験や事例が、状況・行動・結果・学びで整理され、主張を支えている具体例はあるが、主張とのつながりが弱い具体例がない、または一般論のみ
表現・形式常体で統一され、読みやすく、誤字もなく、字数を守っている読みにくい箇所が数か所ある文体の混在や誤字が目立つ

15点以上なら、本番でも十分に戦える水準です。10点未満の観点があれば、対応する回に戻って復習してください。


解答例(問題A)

以下は一つの例です。経験談は架空のものなので、自分の経験に置き換えて練習してください。自分の答案と比べるときは、文面ではなく構造に注目します。

私は、働くうえで最も大切なのは、相手の立場に立って考えることだと考える。

理由は、仕事の成果は、顧客や同僚に受け入れられてはじめて価値を持つからだ。相手が何を求めているのかを理解しないまま努力しても、的外れな仕事になり、やり直しや信頼の低下を招きかねない。

私は、学習塾のアルバイトで中学生の数学を担当した。当初は、自分の分かりやすい説明を一方的に伝えていたが、生徒の成績は伸び悩んだ。そこで、解説の前に「どこで迷ったか」を生徒自身に話してもらうようにした。すると、基礎的な計算の誤りが原因だと分かり、そこから教え直したところ、生徒は次の定期テストで点数を上げた。この経験から、相手の立場で状況を把握することが、成果の出発点だと実感した。

確かに、相手の要望に合わせすぎると、自分の意見が言えなくなるという懸念もある。しかし、相手の立場を理解することは、相手に従うことと同じではない。状況を理解したうえでこそ、より良い提案ができ、必要であれば異なる意見も的確に伝えられる。

したがって、私は、相手の立場に立って考えることが、働くうえで最も大切だと考える。仕事に就いてからも、まず相手の状況を丁寧に理解したうえで、自分にできる最善の提案を行っていきたい。

 

解説:この答案の構造
段落役割
第1段落論題への「考え」を一文で示す(序論)
第2段落「理由」を、なぜ重要かまで掘り下げて示す
第3段落「具体」を、状況・行動・結果・学びで示す
第4段落懸念への譲歩と反駁
第5段落考えの再提示と、仕事への生かし方(結論)

見てほしいのは、論題の3要素(テーマ・考え・具体的理由)が、そのまま答案の段落構成になっている点です。第3段落の経験は、「学び」の一文で主張に戻っています。第4段落では「確かに〜しかし」の型で視野の広さを示し、結論では仕事への生かし方まで触れています。


問題Bの構成メモ例

問題Bは、答案を書く前の構成メモの形で示します。これを参考に、本文を書いてみてください(経験は架空)。

  • 考え: 生成AIが広がる中で、人に求められるのは、AIの出力を評価し、責任を持って使う力だ。
  • 理由: AIの出力には誤りが含まれる可能性があり、最終的な判断と責任は人が負うから。
  • 具体: 授業の発表準備で、AIが作った要約を原典と照らして確認したところ、重要な前提が抜けていた。そこを補って、正確な発表にできた。この経験から、出力をそのまま使わず、確かめる姿勢が必要だと学んだ。
  • 懸念: AIに任せれば、人の力は不要になるのではないか。
  • 応答: 任せる範囲を決め、結果を評価するのは人の役割で、使いこなす判断力はむしろ重要になる。
  • 結論: AIを活用しつつ、確かめて責任を持つ姿勢を、仕事でも大切にしたい。

よくある減点
  • 論題が「あなたの考え」なのに、世間一般の意見を並べて終わる
  • 経験が「頑張った」の羅列で、考えとのつながりが分からない
  • 経験が自己PRに終始し、論題への答えになっていない
  • 志望先への思い入れを書くことに字数を使い、論題への応答が薄い
  • 時間切れで、結論が書けていない

本番に向けて

小論文は、読んだだけでは上達せず、書いた分だけ上達します。就職試験に向けて、次の4つを進めてください。

  1. 志望先の条件を確認する: 字数、制限時間、手書きかどうか、過去の論題の傾向を調べる
  2. 週に1本、時間を計って書く: 長く書くより、頻度を保つことが大切
  3. 身近な話題について、考えを書き留める: 時事ニュースや仕事に関する話題について、「考え・理由・具体」を数行で書く習慣をつくる
  4. 他の人に読んでもらう: 自分では気づけない飛躍や読みにくさは、第三者の目で見つかる

小論文に書いた内容は、面接で詳しく聞かれる可能性があります。事実を盛らず、自分の言葉で説明できる経験を選んでおくことが、結果的に筆記と面接の両方を助けます。


おわりに

全5回を通して学んだのは、就職試験の小論文は、才能ではなく手順で書けるということです。論題を分解し、考えを決め、理由を深め、経験で裏づけ、表現を整えて見直す。この手順を繰り返すうちに、自然に体が動くようになります。

ここまで読んだあなたは、すでに土台ができています。あとは、実際に書いて、見直して、また書くだけです。